Jリーグの順位表に垣間見る、日本の最先端の戦術とは
4月28日で、ゴールデンウィーク前の全ての日程を消化したJ1。
ここまで8試合ずつを戦ってきた各チームだが、今の段階では、リーグ戦の約4分の1を消化したことになる。
次の試合はゴールデンウィーク真っ只中の5月1日だが、その試合を前に、各チームの序盤戦の成績を振り返っておこうと思う。
順 チー 勝利 敗戦 引分 累積 累積 得失 総勝
位 ム名 数 数 数 得点 失点 点差 点数
1 鹿島 7 0 1 17 6 +11 22
2 名古屋 5 1 2 16 8 +8 17
3 広島 3 1 4 11 6 +5 13
4 大宮 4 3 1 13 11 +2 13
5 千葉 3 2 3 19 16 +3 12
6 川崎 3 3 2 16 13 +3 11
7 横浜 3 3 2 13 11 +2 11
8 セレッソ 3 3 2 10 11 -1 11
9 ガンバ 2 2 4 15 16 -1 10
10 FC東京 3 4 1 10 11 -1 10
11 柏 2 3 3 9 11 -2 9
12 ヴェルディ 2 3 3 14 17 -3 9
13 大分 3 5 0 10 14 -4 9
14 新潟 2 3 3 9 15 -6 9
15 清水 1 2 5 6 7 -1 8
16 磐田 2 3 2 7 12 -5 8
17 浦和 1 3 4 10 11 -1 7
18 神戸 1 5 2 8 17 -9 5
少し前までのJリーグは、磐田と鹿島の2強だった。
そして、去年は浦和と横浜の2強だった。
今年のJリーグは、その4つの争いになると思っていた。
去年のナビスコカップと天皇杯をそれぞれ制したFC東京と東京ヴェルディ、2年連続セカンドステージ2位の千葉、去年のファーストステージ4位にセカンドステージ3位のガンバ大阪など、優勝争いに食い込んできそうなチームはたくさんある。
それでも、4強の座は揺るがないと私は考えていた。
その根拠はたくさんある。
磐田は、黄金期を支えた選手たちが選手生命の終盤を迎え、若手との融合に苦労した昨シーズンだったが、今年はアジアチャンピオンズリーグ制覇を目標に大量補強に打って出た。
GKには、日本代表の正GK川口を、DFには韓国代表の金 珍圭を、左サイドには千葉から村井を、FWには、Jでの実績もある韓国代表の崔 龍洙を獲得。
さらに、菊池、成岡、前田などのアテネオリンピック世代が成長し、コンスタントに試合に出場するようになってきた。
これに円熟期を迎えたベテラン勢がフィットすれば、優勝戦線を賑やかすこと間違いなしだ。
鹿島は、昨年の優秀新人賞を受賞した岩政がすっかりレギュラーに定着し、穴だったセンターバックに不安がなくなった。
岩政は、代表のレギュラーになれるくらいのポテンシャルを秘めていて、高さを生かしたヘディングによる攻撃力も魅力だ。
今年は、小笠原からの精度の高いセットプレーを、岩政が頭で決めるシーンも多く見られそうだ。
さらに去年の終わりから日本代表の鈴木が復帰した。
今年新加入したアレックス・ミネイロは、点取り屋タイプのストライカーなので、ポストプレーヤータイプの鈴木との相性は抜群。
二人のコンビが噛み合えば、得点力不足に泣いた去年のようなことはないだろう。
安定した守備陣と合わせて、死角はない。
浦和は、去年見せた驚異的な爆発力が最大の魅力だ。
去年J1得点王のエメルソン、2年連続二桁得点の田中達也、J1屈指のドリブラー永井の3トップはスピード感抜群。
両サイドには、日本代表の山田と三都主がクロスを供給し、ボランチには、テクニックに優れた天才肌のパサー長谷部と、アテネ世代でキャプテンを勤めた鈴木啓太が陣取る。
後ろ三人も去年から変わらず、ネネ、闘莉王、アルパイの連携は問題なし。
驚きの高さで空中戦も無敵だ。
さらに、坪井が怪我から復帰すれば、ディフェンスラインはハイレベルなレギュラー争いを展開することになる。
ベンチにも、元日本代表の岡野と酒井、三都主がくるまでレギュラーだった平川、ユニバーシアード代表でキャプテンだった堀之内、若手の成長株の横山など、計算できるメンバーが並ぶ。
去年と同じ試合展開ができれば、今年は間違いなく優勝候補の最筆頭だ。
横浜は、怪我人続出が悩みの種だが、選手個々の能力は非常に高い。
レギュラーはもとより、GK以外の全てのポジションをこなせる中西、去年のチャンピオンシップで決勝ゴールを決めた河合、2003年のワールドユースでレギュラーだった栗原、中盤より前ならどこでもこなせる大橋、レッズから加入したアテネオリンピック代表の山瀬、ジュビロの黄金期を知るスピードが武器の清水、去年J2で日本人最多得点の大島、2003年のワールドユース得点王の坂田、今年2年目の期待のドリブラー山崎など、他のチームならレギュラーでもおかしくない逸材が揃っている。
今年新加入のアデマールも、韓国の城南一和で横浜と対戦したことがあり、チームの特長は理解しているはずだ。
怪我をして戦線離脱していた久保と安が戻れば、3連覇を達成した頃の輝きを取り戻すのは間違いない。
しかし、8試合を消化した時点で、4強のうち好調なのは首位のアントラーズだけだ。
磐田、横浜の2チームは、アジアチャンピオンズリーグとの兼ね合いによる過密日程で、全ての試合をベストメンバーで戦えないことが原因だろう。
浦和は、エメルソンの体調が万全でないこと、ディフェンスラインのメンバーが固定できないことなどが、現在の順位に繋がっていると言えよう。
しかしこの順位表、よくよく見ると、面白いことに気づく。
上位4チームが、4バックを採用しているチームなのだ。
Jリーグで4バックを採用しているのは、鹿島、名古屋、広島、大宮、FC東京、柏、新潟、清水の8チーム。
そのうちの半分が上位4つに並んでいるのだから、4バック推奨派の私には嬉しい限りだ。
さらに、総失点の少ない順から並べていくと、鹿島と広島の6、清水の7、名古屋の8、大宮、横浜、セレッソ大阪、FC東京、柏、レッズが並んで11と続く。
なんとここまでで、4バックを採用している8チーム中、新潟を除いた7チームが名前を連ねたことになる。
これは、「3バックは4バックよりも守備的である。」というサッカー界の常識を覆している、驚くべき数字なのである。(3バックと4バックの戦術的違いについては後日。)
まだシーズンの4分の1しか消化していない現段階では、時期早尚と言われてもおかしくないが、4バック全盛の時代が戻ってきたと言っても過言ではないのではないか。
そもそも、今、世界ではすでに4バックが主流だ。
イタリアのセリエAが世界最高のリーグと言われていた1990年代始め、アリーゴ・サッキ率いるACミランが、ゾーンプレスという革命的なディフェンス方法を世に知らしめ、世界は急速に4-4-2の時代となった。
それまでも4バックが主流だったが、4-3-3と言われるウィングを置く戦術が広まっていて、FWの選手がディフェンスをするということはまずなかった。
しかし、サッキが作り出したプレッシングサッカーにより、中盤やFWの選手にもディフェンス能力が求められていったのである。
94年のワールドカップは、まさに4-4-2のための大会だった。
ベスト4に残ったブラジル、イタリア、ブルガリア、スウェーデン、全てが4バックだったからである。
ところが、4-4-2が定着してくると、2トップを抑えるための戦術である3バックが流行した。
これは、相手の2トップを、2人のセンターバックとスイーパーで抑えるという戦術で、4-4-2よりも少し守備的である。
3バックは、最終ラインに必ず一人余る格好になるので、カバーリングがしやすく、安定した守備を展開できるという特長がある。
98年のワールドカップは、3-5-2と4-4-2の2大戦術の戦いだった。
このときの決勝戦は、フランスの4-5-1とブラジルの3-5-2の戦いで、4バックのフランスが勝っている。(4-4-2と4-5-1の守備の仕方はほとんど変わらない。)
しかし、その後は3-5-2が4-4-2を抑えて戦術の先端を走ることになる。
2002年のワールドカップでは、ベスト4に残った、韓国、ドイツ、ブラジル、トルコのいずれも3バックシステムだった。
ところが、再び4バックが世界を牛耳っている。
それは、今年のチャンピオンズリーグを見れば一目瞭然である。
ベスト4に残った4チーム全てが、4バックを採用しているからだ。
2002年のワールドカップで韓国をベスト4に導いた名将、ヒディング監督が率いるPSVでさえ、ワールドカップから3年足らずの現在は4バックで戦っている。
さらに、ベスト16に勝ち残ったチームのシステムを見てみても、全てのチームが4バックを採用している。(ポルトは、インテル戦のセカンドレグでは3バックだったが、本来は4バックのチームである。)
これは、3バックよりも4バックのほうが安定した試合運びを展開でき、なおかつ組織的に守備を展開でき、ポジションチェンジも有機的にこなせるからだろう。
3バックよりもポジションにとらわれることの少ない4バックが、戦術の最先端に舞い戻ってきてもなんら不思議はない。(4バックと3バックの戦術的違いにおいては後日。)
日本ではまだ3バックを採用しているチームが多い。
すなわち、日本は世界の最先端にはまだ追いついていない、という結論に至ることができる。
日本がサッカー先進国と言われるためにも、世界に追いつくためにも、4バック全盛の時代が一刻も早く来ることを願う。